igomasの部屋

どうも、igomasです。ウルトラマンファン。ヒーローより怪獣、悪役が好き。今日も今日とて「悪役」考察♪

2019年悪役グランプリ

 皆さんこんにちは、igomasです。今回は、2019悪役グランプリと題しまして、2019年、igomasが出会った『作品』(映画、ドラマ、アニメ、漫画、ゲーム等)全ての悪役を振り返る企画です。また最後には、心にぐっときた上位3名をランキング形式で表彰したいと思います。

 毎年igomasは、個人でランキングを作っているのですが、昨年は本当に大収穫の年で、ぐっときた悪役が多すぎてランキングをトップ10まで拡張して作りました(しかも、愛染マコト、美剣サキ、新条アカネの三大円谷悪役はランク外という激戦ぶり)。トップはほとんどマーベル勢がしめ、参考までに1位はエージェントオブシールドシーズン4フレームワーク内のレオポルドフィッツ博士(長い)でした。かのサノスが4位であることからも、いかに厳しい戦いか理解していただけると思います。

 なお、各悪役の評価、ランキングは、ある程度客観的考察に基づくものの、あくまで個人の感想です。ご承知ください。また、悪役に触れるということは多少なりともネタバレはありますので、ネタバレが嫌な方は適宜、段落を飛ばして読むなどしてください。

 

 

 《2019年を振り返って》

 2019年初期から、「電光超人グリッドマン」のカーンデジファー&藤堂武史をはじめとして、多くの悪役が乱立していました。映画「スパイダーバース」は、悪役一人一人に重きを置くストーリー構成ではなかったものの、とても個性あふれる悪役軍団が見られました。作品全体の完成度としても、かなり高かったと思います。また、漫画「ストロボエッジ」は、悪役がいないながらも面白い作品で、悪役のない作品の可能性を見せてくれました。

 さて、そんな初期、具体的には3月の末頃まで、トップの座をキープし続けていたのは、「スターウォーズ・ローグワン」のオーソン=クレニック。労働者階級出身の悪役で、指揮官としてのカリスマ性を持ちながらも、主人公らの攻撃・上司の裏切り・ベイダー卿のお叱り・雨にうたれて倒れているシーンなどなど、数々のシーンから溢れ出るヘタレ感をも併せ持つ、実に素晴らしい王道悪役でした。

 他に良かった悪役は、「ウルトラマンガイア」のアグル。キャラづけや人間関係、誕生の描写などもしっかりしており、主人公ガイアの対立項として、悪役としてすばらしい活躍を見せてくれました。最終的にサブウルトラマンとして活躍しましたが、人間を見捨てようとしても見捨てきれない、葛藤しながら戦う悪役としての姿もなかなかよいものだな、と。

 東京ディズニーシージーニーのマジックシアター」のシャバーン。とても魅力がある悪役だったのですが、さすがディズニースタッフというべきか、あまりにも人が良すぎて、「憎めない悪役」を通り越して「もはや悪人とは思えない」まで行ってしまった感。むしろ、やってることはジーニーの方がひどいw

 「キャプテンマーベル」は本当にいい映画でしたね。スプリームインテリジェンスは王道で好き。ヨンロッグの絶妙なヘタレ感も好き。でも一番魅力的なキャラクターはスクラル人のタロス。演技力もあいまって、非常にいいキャラクターでしたね。ちなみに俳優のベン・メンデルソーンは先述のローグワンのオーソンクレニックも演じています。……すげぇな、このままだと今年の上位ほぼベン・メンデルソーンになるぞ、と危機感を覚えた春でした笑

 さて、この辺りでついに、3月末までの大本命である、「レイトン ミステリー探偵社~カトリーのナゾトキファイル~」より、ルーファス=アルデバランが登場します。レイトン教授シリーズの悪役というのは、悪役となったその理由や立ち居振る舞いからして、非常に魅力的なキャラクターが多いのですが、さてルーファス=アルデバラン、実に初登場時の掴みが完璧な悪役でありました。探偵でありながら、富豪の犯罪を見破ったうえで、その富豪と取引してその犯罪を隠蔽し、多大な見返りを受け取る。非常に洗練された悪役像で、これは今年の優勝候補か、と思われたものの、秘宝レリクスの一件ではそれほど強敵という感じはなく、動機も劇的なものではなく、良くも悪くも「レイトンっぽい」止まりだったのは少々難点。論破のされ方、敗北の仕方はレイトンっぽさではなくしっかりカトリーらしさを追求した展開で素晴らしい見せ方でしたが、飛び抜けた面白さまでは至りませんでした。確かにとても好きな悪役に違いありませんが、惜しくも上位は逃したという感じですね。

 仮面ライダージオウには、様々な思惑の敵が登場しましたが、中でもお気に入りは白ウォズ。黒ウォズとの役し分けが巧く決まり、差別化ができているとともに、行動原理もしっかり分かるので、色々悪巧みをするたびに「この人何がしたいんだ」みたいな詰まりがなかったのも、スムーズに視聴できて良いポイント。衣装も近未来的で興味深いキャラでした。白ウォズの一番惜しいところは悔しがる描写。芝居がかりすぎていた印象がありましたね。悔しがり方は悪役の大きな見せ場。

 さて、2019年はこの作品の年と言っても過言ではないほど影響力を持つ作品、「アベンジャーズ/エンドゲーム」より、サノス。前作では、全宇宙の生命を半分にすることに対し、曲がりなりにも理屈は通った考えを持ち、自信も多くのものを失いながらも目的を実行しようとするその姿勢に、共感する人もいましたね。まぁテーマや構造を鑑みるに、サノスが悪であることに変わりは無いのですが、それでも前作のサノスはあまり横暴というか、攻撃的な面が多少削がれていた印象がありました。今回のサノスは精神的にまだ成熟していない頃のサノスで、まさに暴君といった暴れぶりでしたね。ガチのスーパーパワー使いという訳ではないけれど、フィジカル、軍事力が圧倒的に強すぎる。キャプテンアメリカがサノス軍を前に一人立ち上がる、その絶望感は、えもいわれぬ最高に研ぎ澄まされた演出でした。これぞ悪役、といえるようなその存在感、絶望感は近年まれに見るカリスマでした。

 今年見た悪役の中でも思い出深いのは、「ペット」より、スノーボール。もうなんていうか、ザ・典型的な悪役、という感じで、何から何までこういう展開になるだろうな、と予想がついて、本当にその通りに行動するほどの典型ぶりだけど、そこに愛着が湧くというか、どこか懐かしさを与えてくれる、素晴らしい悪役でした。なぜ彼が、人間と仲良くするペットを毛嫌いするのかという背景設定、彼が持っている価値観はどんなものか、仲間手下への思いはどういうものか、決して根が悪いという訳ではなく、重要なところで活躍するその正義感、主人公たちが飼い主を慕う気持ちを、悪役ならではのツンデレっぽさがありながらもどう理解していくのか、そしてその後どのような人生を歩んでいくのか。悪役として必要な、あってほしい要素が全部詰まっていて、非常に丁寧な描かれ方をしていました。悪役の初歩の初歩、でもとても大切な部分を思い出させてくれる、良い悪役でした。悪役学を始めたい人はまず今作を見よう。

 「ウルトラマンタイガ」は、非常に不思議な作品で、なんというか、メインヴィランウルトラマントレギアが、変身した後と変身する前の霧崎とで若干別人かと思えるほどキャラ付けが異なっていました。前の記事でも述べましたが私igomasは、トレギアと霧崎を別々に評価することにしていて、霧崎のランキングはまぁまぁ高いですね。とてもキャラや仕草が立っており、タイガ登場人物の中で、彼に最も魅力を感じたというファンが多いのも納得。

 今年の映画界を激震させた作品の一つに、「ジョーカー」がありました。それぞれの映画が絡み合い、影響し合って進んでいくMCUの作品群とは異なり、単発の映画を作るという路線に転換したDCの贈る、素晴らしい一品。観客の心を鷲掴みし、大ヒットを成し遂げました。今年の悪役を語るなら、このジョーカーは絶対外せません。しかし、とても難しいところではあるのですが、私igomasは、こと悪役としての秀逸さという観点で見ると、ランキング上位には来ないのではと判断しました。今作のジョーカーは、他の追随を許さないほど洗練された個性を持っている、というわけではなく、どちらかというとごく普通の一般人って感じなんですよね。悩める一般人が、犯罪者となり、やがてはゴッサムの町を覆いつくさんとする犯罪者たちの王となる。そんな風に映りました。犯罪者に祭られる犯罪者、という印象が強く、カリスマ性を持った悪役、というには足りない印象。作品としてはよく出た作品なんだけど、では果たしてジョーカーが魂を奮わす「悪役」かと言われると、ちょっと違うかなぁと思うわけです。

 今年公開の映画ではありませんが、幸運にも映画「ナイトクローラー」を見る機会がありまして、いやぁ、この映画には震えましたね。主人公のルイス・ブルームを演じるのは、今年だと「スパイダーマンファーフロムホーム」のミステリオ役でも有名な、ジェイク・ギレンホール。彼の怪演が実に見事で、1カット1カットの魅力的な撮り方も相まって、非常に素晴らしい悪役として映っていました。この作品自体が、どれも芸術的センスの光るカットの連続で、ジェイク・ギレンホールが内に秘めたる才能を、これでもかと引き出してくる映像美はほんと素晴らしい。

 エージェントオブシールドシーズン5には、まさかのレオポルドフィッツ博士が再登場。彼が登場したたった一話の物語、「悪魔コンプレックス」は、ドラマとしての完成度が非常に高く、悪役の魅力も、登場人物の苦悩・苦難も、主人公らの関係が少しずつ歪んでゆく不調和も、なにもかも見せ方が見事でありました。もう今年も彼が一位でいいのではないかと何度も思わされたほどに素晴らしい悪役でしたが、さすがにそれではランキングにならないだろうという、私に残ったわずかな理性によってそれはなくなりました(笑) それにしても実に魅力的な悪役でしたね、彼は。

 さて、今年も色々な悪役と出会い、実に楽しい悪役ライフを過ごせたわけですが、しかし、ここで問題が。私の作る悪役ランキングってかなり厳正なもので、「真に心にぐっときた悪役」しか最後のランキングに載せない、ということを徹底してるわけなんですけれども……こんなに良い悪役が沢山いるものの、「真に心にぐっときた」と胸を張っていえるのはたった2人だけであったのです。これはまずい、トップ3が発表できないのは非常にまずい、と思い、年末駆け込みで、悪役好きのための究極の作品を見るという暴挙に走り、滑り込みでトップ3が確定しました。とその前に…

 

<審査員特別賞>

審査員特別賞 「映画 傷だらけの悪魔」より 小田切 詩乃

 今年は、第三位を超えてランキングに入る悪役はいませんでしたが、審査員特別賞と題し、この悪役を称えたいと思います。小田切 詩乃は、非常に気に入った悪役ではあったのですが、登場映画そのものの出来があまり良くなく、惜しくもトップ3を逃しました。せっかく良い悪役なのに、ランキングに載せないのはちょっと申し訳ないなと思い、この賞を特別に設立した次第であります。

 今作、傷だらけの悪魔は、いじめをテーマとした作品です。この小田切 詩乃という人物は、かつて中学生のころ主人公にいじめられており、不登校になり、諸事情で改姓し田舎へ移り住みました。その後主人公が偶然にも同じ田舎へ移り住んできて、転校生として同じ高校にやってきます。小田切はそこで、突如発作気味になりながら中学の頃主人公にいじめられていたと暴露し、結果主人公は、いじめっ子は制裁すべし、とクラス中から攻撃されることに。実際は暴露した際の発作は小田切の演技であり、その後もあらゆる手段を使って、クラスの主人公へのヘイトが高まるように画策。主人公を追い詰めていきます。自分は手を下さず、周りの生徒を巧みに操って主人公に復讐する。それが、小田切という人物の悪役像であります。

 先ほど、主人公にいじめられていたと暴露する際の発作は演技、と言いましたが、だからといって小田切が中学の頃のいじめを克服したかというと全然そんなことはなく、劇中でもマジモンの発作を起こしたり、過去のトラウマに悩まされたりと、かなり病んでいる描写もなされています。演ずる女優の江野沢愛美さんの演技が非常に秀逸で、完全に病んで精神ギリギリの状態で復讐してくる小田切のキャラが、綺麗に確立されていました。一挙手一投足、動きのすべてが洗練され、ぐっときた悪役ですね。

 ただ今回、諸々の話の畳み方がすごく雑で、最後のシーンとか、メッセージ性が非常に浅いというかパンチが弱く、全然鮮やかに決まっていないなぁというのが正直なところ。もっと考えに考え、最後のシーンを制作陣が作っていれば、もっと良い映画に、もっといい悪役になれたのに。まぁ原作の漫画はもっと話も長いし完結もしていないらしいので、この時点で実写化するには無理があったというのもあるのかも。

 以上、審査員特別賞でした。演じられた江野沢愛美さん、おめでとうございます。人を魅了する素晴らしい演技力だったので、今後注目したい女優さんですね。

 

<2019年悪役グランプリ:トップ3>

 さて、ここからトップ3の発表です。これから発表される3名は、2019年の荒れ狂う死闘を制し、狭き門をくぐり抜けた最高の悪役たちです。私igomasが、自信をもって紹介する、後世に残したい至極の悪役。温かい目で迎えてあげてくださいませ。

 

第三位 「ダークナイト」より ジョーカー

 先述の、「滑り込みでトップ3を確定させるために見た映画」というのが、このダークナイト。悪役好きには外せない映画の一つですよね。かのスターウォーズを代表する悪役ダースベイダーに並ぶほどの人気を誇る、悪役界の王、ジョーカー。今作はクリストファー・ノーラン監督の描く、バットマン3部作の二作目にあたる作品です。一作品としての完成度が高く、他のシリーズ作品を未視聴でも十二分に楽しめましたね。

 アメコミのヒーロー映画といえば、スーパーパワーを持ったヒーローと悪役との戦いが描かれることが多いわけですが、今作のヒーローであるバッドマンも、言ってみれば防弾スーツを着た一般人であり、悪役であるところのジョーカーも頭の切れる悪党というだけで、特にスーパーパワーを持っていない、というのは、ヒーロー映画としても斬新でしたし、臨場感もまた素晴らしかったと思います。

 本作に登場するジョーカーは、犯罪界の王として名をとどろかせ、悪役としてのカリスマ性と他を畏怖させる不気味さを兼ね備えた悪役であります。冒頭の銀行強盗のシーンではその悪役としての魅力が存分に発揮されています。小悪党らを操り陰から操る闇の帝王かと思いきや、実行の最終段階、最後の詰めの部分だけは自らの手で行うという周到さには、初見で心をぐっとつかまれること間違いなし。悪役の初登場シーンとしてこれ以上ないくらいに不意打ちで、象徴的なシーンとして今なお語り継がれるシーンですね。

 ジョーカーは他にも魅力的なカットが多数存在し、そのどれもが素晴らしい。札束の山を焼いて金に群がる小悪党どもを鼻で笑うシーンとか、警官に扮して市長のスピーチに参加し発砲した後足早に逃げるカットとか、爆弾のピンを指で示しながら後ろのドアを蹴り開け去っていくシーンとか、パーティーに乱入してサクランボみたいな実をむしゃむしゃ食べるところとか、ヒロインの顔にリンゴの皮むきのようにナイフを突きつけるところとか、バットマンに負けそうになって子分を盾にして足のつま先に常備したナイフでバットマンを蹴り上げる小悪党感満載のカットとか、バットマンにトラックを転倒させられワイヤーを払いのけよろけながらバットマンに俺をやれるもんならやってみろと迫るシーンとか、捕まって自分を逮捕した警官が皆に称賛されているときにジョーカー自身も手をたたいて警官らが不気味がるシーンとか、バットマンに尋問され痛がりながらもバットマンが何もできないことを嘲り笑うシーンとか、病院爆破とか、まぁともかく印象的なカットがこれでもかと詰まっているのがまた魅力でありましょう。

 特に、ジョーカーが最も魅力を発揮するのは、悪事をしているその時ではなく、バットマンと対峙しているシーンというのがまた、素晴らしい。悪役としてただ完結してしまうのではなく、主人公との対比の中で輝くというのは、悪役として素晴らしいスキルであります。中でもバットマンとの尋問シーンは実に愉快軽快爽快で、見ていて大変楽しめましたね。キャラクターとしても画角としても、なるほどジョーカーはバットマンがいるからこそ輝けるのだな、というのが非常に鮮明にわかるよう構築されていましたね。いやはやほんと、素晴らしい。

 本作のジョーカーは、当時恋愛ものだとか、そういうピュアな映画の主人公ばかり演じていたヒース・レジャー氏が演じており、キャスト発表時には原作コミックファンから、「恋愛映画の主人公にジョーカーが務まるわけがないだろう」と多々クレームがあったそうですが、公開するやいなやそんな意見は、まったくもってなりをひそめたとか。その恐ろしいほど鮮烈な演技力は見るものを圧倒し、物語の世界へと引き込んでいきます。ぜひともこのジョーカーの魅力は、実際見て確認していただきたいものですね。

 

第二位 「文豪ストレイドッグス(第三期)」より フョードル・D

 第二位にランクインしたのは、実際の文豪をモチーフとした名の登場人物らが、実際の作品名をモチーフとした能力「異能」を使って戦いを繰り広げるアニメ文豪ストレイドッグス第三期より、フョードル・D。いわずもがな元ネタは、フョードル・ドストエフスキー

 先述の通り、今作は異能を用いたバトルアクションアニメなわけですが、様々な異能を使って各人が戦いを広げる中、フョードル・Dだけはなんの能力を使うこともなく、話術と知略だけで切り抜けているのです。主人公らがどう行動するのかそのすべてを見極め、登場人物らを駒のように動かすその知能は、主人公らを破滅、瓦解させるに十分な脅威でありました。

 初登場時にて、横浜を統べる大組織にして主人公らと敵対するメインの敵組織、ポートマフィアの5大幹部、A(エース)を殺害するという鮮烈なデビューを飾りました。彼はAに自らのもつ情報を賭け、トランプでのハイ&ロー勝負を挑みます。トランプの扱いに長けたAはあっさりとそれを承諾するのですが、無類の知性を誇るフョードルに圧倒され、言葉の幻術や偽の情報に惑わされるうちに、自分は異能を見せられているのだという錯覚に陥ったAは、最終的に「合理的な結論」として、自らの命を絶つのです。Aもまた優れた観察眼を持ち知略に長けた幹部であったものの、彼の信じた情報はフョードル自身によって流された偽の情報であり、すべてフョードルの手のひらで踊らされていただけだった、という悲しい最期でありました。自らは一切手を汚すことなく、ラスボスの一角をさもあっさりと殺害したその手口には、視聴当時度肝を抜かされました。悪役の魅力がこれでもかと詰まった、そんなデビュー作。文豪ストレイドッグス第三期29話はオススメの一作ですね。この一話、たった30分で今年の2位に上り詰めたといっても過言ではないくらいに、完成された一話でありました。

 フョードル・Dはそれ以降も暗躍し(というかそこからが本領発揮なわけですが)、嘘の情報で人を惑わし、翻弄し、横浜のあちこちで戦乱の火種を蒔いたり、また部下の異能力を用いて、主人公組織「異能探偵社」のボスそしてポートマフィアのボスを両方戦闘不能に追いやり横浜に混乱と戦火を巻き起こすなど、その悪行は数知れず。異能探偵社とポートマフィアが手を組みフョードルのアジトへと攻め込んだ最終決戦では、なんとフョードル自身一度もそのアジトに足を運んだことはなく、すべてフェイクだったという大どんでん返し。最終的には太宰治の機転も相まって、内務省異能特務課そしてギルドの力を借りようやく捕縛することができました。しかしながら、一連の事件が終わって後なおも、フョードルのもつ「異能」は結局謎に包まれたままというその不気味さも、悪役の魅力に一役かっています。今後再登場し、さらなる脅威となるやもしれませんから、目が離せないキャラクターですね。

 フョードル・Dを演じられた石田彰さんは、声優界に名をとどろかせる大御所であり、「黒幕の声と言えばこの人」との呼び声も高いわけですが、その魅力的な声が実にこのフョードル・Dの雰囲気とマッチしており、最高の配役だったなとしみじみ。

 

第一位 「スパイダーマンファーフロムホーム」より ミステリオ

 2019年悪役グランプリ、栄えある第一位を獲得したのは、主演にトムホランドを起用し新たに始まったMCUスパイダーマンの2作目、スパイダーマンファーフロムホームより、ミステリオ。

 ミステリオは、原作コミックでも人気のヴィラン。SFX技術やバーチャルリアリティといった技術を駆使し、幻覚を見せるなどして、幾度となくスパイダーマンの前に立ちはだかります。スパイダーマンのクモ糸を酸性溶液で溶かしたり、結構原作でも理知的な戦い方をするヴィランですね。

 ミステリオの代名詞とも言えるのが、金魚鉢のような丸っこいヘルメットで、その独特の風貌も人気の理由ですね。映画に登場したミステリオは、コミック版のそれを踏襲しながらも全体的にブラッシュアップされ、非常に格好いい造形に仕上がっていました。

 映画の予告編では、そんな大人気の悪役ミステリオが、今作ではヒーローとして登場するという設定が明かされ、評判を呼びました。ミステリオは本当にヒーローなのか、それともやっぱり悪役なのか。放映前から数々の憶測が飛んでいましたね。

 本編冒頭、「顔のある砂の怪物が暴れた」との報告を受けたニック・フューリーとマリア・ヒルの二人の前に、ミステリオが降り立ちます。ミステリオはMCUで展開された世界とは全く別の異世界マルチバースからやって来たヒーローで、故郷の地球にて、エレメンタルズなる怪物らと戦い、家族を亡くした悲しい戦士でありました。四大元素をモチーフとする怪物、エレメンタルズは次第にその勢力を拡大し、ミステリオことクエンティン・ベックのいた地球は滅んでしまったのです。

 エレメンタルズはなおも進行を続け、次なる宇宙すなわち、MCU世界へとやって来たのでした。ミステリオは故郷の星と家族の無念を晴らすため、そして新たな世界を守るため、日夜戦っていたのです。フューリーとヒルの二人は、ミステリオと協力しエレメンタルズと戦います。ミステリオは魔術師のような技の数々を使い、宙を飛び回り、手から魔方陣を出し強力な攻撃を放ち、エレメンタルズと戦います。そんな折、ヴェネチアの街に水の怪物ハイドロマンが現れます。現場にいたスパイダーマンはそこでミステリオらと出会い、自らもエレメンタルズとの戦いに参戦するのでした。最終的に、二人はエレメンタルズの中でも最も強い強敵、モルテンマンと戦い、辛くも勝利。共闘関係を続けていくうちに、ミステリオはスパイダーマンと師弟関係のようになってゆき、ミステリオをアイアンマン亡き後の地球を任すに足るヒーローだと考えたスパイダーマンことピーターは、とあるバーにて、彼にアイアンマンの形見である超高性能メガネを託すのでした。

 しかし、ピーターが去るやいなや、店の風景は一変。ミステリオことベックはニヤリと微笑み、店にいた客らが歓声を上げ、ここでネタばらしが入るのです。まず、ミステリオなどというヒーローは存在しません。ミステリオというヒーロー、ミステリオの放つ魔術めいたもの、そのすべてが、高性能ホログラムによって映された幻覚だったのです。また、ミステリオことベックの地球が、エレメンタルズによって滅ぼされたという上記の物語はすべて嘘。エレメンタルズもまた、ミステリオの作り出した幻覚に過ぎません。そう、すべてはミステリオの仕組んだ大規模なマッチポンプ計画だったのです。

 クエンティン・ベックは、アイアンマンことトニースタークが社長を務める、スタークインダストリーズの元社員で、高性能ホログラムの開発者でした。トニースタークはこの発明を記者に発表する際、自虐の意味をこめて酷い発明だと言い、この技術を「BARF」(ゲロ)と呼称し、せいぜいセラピーマシンぐらいにしか使えない技術に大金をはたいてしまった、と発表しました。開発者のクエンティンは、自身の発明をコケにされたことに憤慨し、夢の技術であると社長に直訴しますが、トニースタークは彼を狂っていると言って解雇。ベックは路頭に迷うこととなるのです。ベックは同じくトニースタークによって自身の尊厳を否定された被害者らを集め、チームミステリオを結成。各人が作業を分担し、皆で協力して虚構のヒーロー、ミステリオを作り出し、トニースタークへの復讐を図っていたのです。ある人はヒーロー然としたミステリオの衣装をデザインする役目、ある人はニック・フューリーを騙せるような物語(上記の嘘物語)を考える役目、ある人はミステリオの活躍にリアリティを持たせるためのサポートの役目、と各人が各々の役割を担っていました。まさに劇団ミステリオともいえるこのチームが作り上げる虚構のヒーロー、それがミステリオだったのです。

 彼らの目的はただ一つ。アイアンマンの形見である、超高性能メガネを手に入れること。そのメガネは、世界中のありとあるインターネットにアクセスし、どんな情報も意のままに手に入れることが出来るほか、何百もの軍事ドローンを操作できる禁断のアイテムだったのです。このドローン軍団とホログラム技術を使い、大規模な破壊活動をする、さらに強大なヴィランと、それに立ち向かうヒーロー、ミステリオの存在を世界に知らしめ、アイアンマン亡き地球における「次のアイアンマン」になろうとしていたのです。当然、強大なヴィランの破壊活動を再現するため、軍事ドローンを用いた大規模破壊がなされ、大勢の人が死ぬことになります。真相を知ったスパイダーマンはミステリオを止めるため、彼に立ち向かうのでした。

 ミステリオの正体が明かされた中盤のバーのシーンは、未来永劫語り継がれるべき、映画史に名を残す圧巻の出来。スパイダーマンの師匠として数々の困難に立ち向かうヒーロー然とした前半から、私利私欲のため大勢の被害をいとわず破壊活動を行う残忍かつ狂った悪党である後半への、がらりと変わる演技が非常に巧く、当時見たときはその演技力に心底震え上がりましたね。もうなんというか、涙がボロボロボロボロ出てきて、こんなに悪役の登場シーンで感動したのは未だかつてありませんでした。演じたジェイク・ギレンホール氏は、心優しい主人公からイカれた狂人まで、幅広く役をこなすカメレオン俳優で、今作のクエンティン・ベックの持つ二面性をも見事に演じてくださいました。

 ジェイク・ギレンホール氏が、バーの演説のシーンにて、トニースタークの動きを参考にしたというのは有名な話。クエンティン・ベックはチームミステリオを率いるリーダー的存在であり、先導者でありますから、彼は観衆の目を引きつけ、心を掌握するようなそんな魅力的なスピーチをしなければなりません。その際に無意識のうちに、自身の最も憎むトニースタークの演説力を取り入れているという皮肉。シビれます。

 一方で、スパイダーマンを演じたトムホランド氏もまた、演じるに当たってトニースタークの動きを参考にしているのです。スパイダーマンはアイアンマンの意思を受け継ぐヒーローの一人でありましょうから、それを意識してのことなのでしょう。主人公悪役両方が同一人物の動きを参考にし、それぞれにそれぞれのキャラクターの物語性が見えてくるのが、絶妙だなと感心しましたね。

 ミステリオは、ホログラム技術以外にも、大きな武器を一つ持っています。それは、「話術」です。クエンティン・ベックは、フューリーやヒルをその巧みな話術で騙した上、スパイダーマンの心をも掌握し、彼から敬愛と尊敬のまなざしで見られるようなそんなヒーローを見事に演じきり、見事彼からアイアンマンの遺産を手に入れます。正体がばれ、スパイダーマンと対峙するようになってからは、スパイダーマンが心に抱える不安につけいり、自己肯定感を下げさせた上で、心理的に追い詰める。徹底的なまでの話術は、ミステリオの持つホログラム技術の幻覚と相乗効果をなしてスパイダーマンに襲いかかり、大変な脅威となりました。

 スパイダーマンに正体がバレたと判明したシーンの狂人っぷりも、実に素晴らしかった。ウィリアムの不手際でスパイダーマンに自身の悪行の証拠が渡ったと知ったとき、ウィリアムに向かってはなった言葉 “One day, after I’ve had to kill Peter Parker because of this, I hope you remember that his blood is on your hands!” ってめっちゃ最高のセリフじゃないですか? まずもってジェイク・ギレンホールの演技が冴え渡っていましたし、クエンティン・ベックが、ウィリアムのミスに並々ならぬ怒りを持っていること、スパイダーマンを殺すことをやむなしと考えていること、本当ならスパイダーマンは騙し相手というだけで殺したくはなかったこと、そのすべてがこのセリフに詰まっており、絶妙なミステリオの立ち位置を巧みに表しています。

 本作中盤のスパイダーマンとミステリオの戦いは圧巻でありました。ミステリオは、言ってしまえばホログラム技術を見せるだけでなんの攻撃手段も持ち合わせていないわけですが、スパイダーマンに、柱に映し出した幻覚を殴らせ逆に腕を痛めさせたり、幻覚で追い詰め線路の上に誘い出し列車事故に巻き込んだりと、幻覚を使った一種のカウンターアタックが見事でありました。またミステリオの作り出す、右も左も分からなくなるような幻想的な幻覚の数々と、上記カウンターアタックの絶妙なマッチが見事。またミステリオの幻覚の何でもあり感も、見ていて実にすがすがしいものでした。ミステリオが幻覚を使ったときに、マイクを使ってか、ややこもった声でスパイダーマンに囁きかけるのですが、その声が実に魅力的で、ミステリオの世界にのめり込んでしまいます。中でも最後の “I control the truth. Mysterio is the truth!” は、後述の「人は見たいものを信じる」というミステリオの行動原理も相まって、非常に好きなセリフ。

 ミステリオは本作終盤、イギリスロンドンにてスパイダーマンとの最終決戦に挑むのですが、スパイダーマンの持つ能力「スパイダーセンス(攻撃を察知し避ける “第六感”)」が復活したことで、倒されてしまいます。この最終決戦は、前述の幻覚戦闘のシーンとはガラッと異なり、大量の軍事ドローンとの対決とやけにリアリティがあり、良い対比になっていたと思います。 “Fire All The Drones Now!” と鬼気迫った表情もかなり好きなシーン。最終的に、ミステリオはスパイダーマンに敗北し、彼からだまし取ったアイアンマンの形見の高性能メガネを返します。と思いきや、「メガネを返そうとしているベック」もまた幻影であり、隙を見て横からスパイダーマンの頭を銃で撃ち抜こうとしていたベック。スパイダーマンはそれすらもスパイダーセンスによって見破り、ベックは倒れるのでした。最後の最後まで意地でもスパイダーマンを倒そうとする周到な悪役であり、幻覚使いとして申し分ないキャラ造形に唸らされました。

 これでミステリオの暗躍も終わりか、と思いきや、なんとエンドロール後の映像にて再登場。ミステリオは死の間際に一本のビデオテープを残していました。それは、「今回の軍事ドローン騒動はすべてスパイダーマンが仕組んだことであり、自分はそれを止めようとしたヒーローである」という内容。マスコミを使ってこの情報を大々的に報じさせ、死んだ後でさえなおもスパイダーマンを苦しめるその手腕は、恐ろしい物がありました。そしてさらにミステリオは、スパイダーマンの正体を写真付きで明かし、いやはや、どうなってしまうのかというところで映画は終了します。悪役としての存在感が大きく、最後の最後まで手を抜かずスパイダーマンを引きずり落とそうとする、狂気の悪役でしたね。

 ミステリオの魅力を語る上で、MCUの歴史は欠かせません。スパイダーマンファーフロムホームは、23作品に渡る大長編映画シリーズMCUのサーガ1最後を締めくくる物語であり、アベンジャーズエンドゲームの後の世界を描いた物語です。アベンジャーズエンドゲームもまた、MCUシリーズの集大成、というべき作品ですので、まずはさらっとMCUをおさらいしておきましょう。その中で、ミステリオの魅力にも触れていければと思います。

 MCU(マーベルシネマティックユニバース)シリーズの1作目となったのが、アイアンマン。当時からマーベルの中でもビッグ3と呼ばれるくらいには人気でしたが、世界的な認知は(スパイダーマンや、他社のコミックヒーロー:スーパーマンバットマンに比べ)さほどなく、なかなかに奇をてらったキャラクターチョイスでありました。これはおそらく、アイアンマンの持つリアリティによるものが多いのではないか、と思っています。アイアンマンは、米軍の軍需産業を担うスタークインダストリーズの社長トニースタークが、テロの誘拐にあい、テロ組織の基地にて自社のミサイルを多数発見し、自社製品が横流しされテロ活動に使われていることを知ります。自らの手で人々を守るため、彼は自らが戦うヒーローとなるため、装着型のアーマーを作り、自らがそれを着て戦うのです。これが、アイアンマンの誕生です。テロ組織や軍需産業、この辺りの設定は、現代人にもすんなり理解できますし、パワードスーツというフィクション要素を除けば、非常にリアリティある設定となっています。またトニースタークは酒癖や女癖の悪い中年男性といったキャラクター像で、これもまた、一般人により近い立ち位置のヒーローを描いています。マーベルは、超人的な力を持った超越的存在としてのヒーローではなく、人として葛藤を抱え続ける人間味あふれるヒーロー像を確立するため、よりリアリティを求めた設定のアイアンマンから、このシリーズを作り上げたわけですね。そうした下地を作った後で、MCUは視聴者層のもつ「リアリティ」の幅を徐々に拡大していきました。第二次世界大戦を舞台に「時代」の拡張を行ったキャプテンアメリカ、科学技術の失敗により生まれた「怪物」を描いたハルク、宇宙を舞台に「場所」の拡張を行ったマイティーソー、宇宙と地球の大戦争を描いたヒーロー大集合映画アベンジャーズ。そしてそれはどんどんシリーズを進めるごとに加速してゆき、ドクターストレンジのミラー次元やアストラル次元、アントマンの量子世界、サノスの持つインフィニティーストーンと、もはや何でもありの世界。少しずつ視聴者の「リアリティ」を拡張しながら、物語を描いてきたわけです。

 そんな、観客の持つ「リアリティ」観が麻痺したところに登場したのが、このミステリオというヴィランです。結局のところ彼は、キャプチャースーツを着て指示を出すただの中年男性、なんの特殊能力も持たない一般人に過ぎません。しかしながらその卓越した技術と話術で、劇中登場人物だけでなく、観客すらも騙してみせたのです。

 ミステリオことクエンティン・ベックは、スパイダーマンに言います。「人は信じたいものだけを信じる」と。MCU世界の人々からすれば、世界の半分を失ったその空白の5年間という辛い時期は、暗く悲しい期間であったはず。その反動もあってか、「人々を守ってくれる万能のヒーロー」ミステリオが登場すれば、ミステリオという虚構の存在を、自然と信じたくなる、という心理をついた発言です。しかしながらこれにはもう一つの意味があって、それはすなわち、我々観客すらも、「信じたいものを信じる」のだということですね。ミステリオというキャラは、魔術飛行能力なんでもあり。そんなリアリティの欠片もないヒーローだけれども、10年以上にわたりMCUを見、感覚が麻痺しまくった観客にとって、ミステリオは信じたいヒーロー像であり、思わず味方だと騙されてしまうような、そんな造形が、素晴らしい悪役でした。

 ミステリオの魅力の大きな一要素として、それまで作り上げてきた物語を、その根底からひっくり返した、という点が挙げられるでしょう。MCUの立役者、アイアンマンことトニースターク。演者のロバートダウニーJr.についての話は、有名でありましょう。彼は父親の影響で若いうちから薬物に手を染め、刑務所にいたのです。当時彼がトニースターク役として抜擢されたのは出所して間もないころでしたから、周囲は彼を疑問視していました。しかしながら彼は、アイアンマンというキャラを、トニースタークというキャラを見事に演じきり、好評を博すこととなるのです。というのも、トニースタークというキャラ造形が、非常にロバートダウニーJr.自身の生い立ちとよく似ている、というところがありました。トニースタークは、偉大な父親を持ち、その子供ということで周囲からの期待が重圧となって推しかかっているような、そんな人物でありました。自社の武器が横流しされテロ活動に使われる、という大いなる過ちを犯した彼は、更生を誓い、ヒーローとして第二の人生を歩み始めます。時には酒依存やパワードスーツ依存といった依存症に悩まされながらも、成長していく姿が描かれています。一方のロバートダウニーJr.もまた、ロバートダウニーという偉大な父を持つことから来る重圧に苦しめられた人物です。薬物に手を染めたという過ちを正し、俳優という仕事に真摯に向き合い始め、薬物依存や酒依存にも悩まされながらも、役を通して成長していったわけです。アイアンマンとは、トニースタークの更生の物語であると同時に、ロバートダウニーJr.の更生の物語でもあるのです。

 そんなトニースタークも、劇中では時には償いきれない過去の負の遺産が首をもたげてきて、自分の悪しき過去が生んだヴィランと戦うこともあります。彼は自己中心的で、女癖が悪く、人の尊厳を平気で踏みにじるようなそんな人間でしたから、多くの人から反感を買い、敵をたくさん作った人物でもありました。いつだって敵と戦うときは自分のやって来たことの尻拭い。人のため世のために自己犠牲を払うことなど、当初は考えられないような人物でありました。そんな彼が、最後にはサノスとの決戦にて、自己の命と引き換えに地球を救うのです。自己中心的で独善的だった彼が、最後には世界の平和のため自らの命を落とす。先のロバートダウニーJr.とトニースタークとの重ね合わせも相まって、最後のこのシーンは「トニーそしてロバートダウニーJr.の成長譚の集大成」といった様相をていしており、アイアンマンは最期に「真のヒーロー」になった、とも言える感動的なシーンでありました。

 しかし本作は、この感動のラストを、22作品を締めくくる壮大な物語を、その根底から覆したのです。ミステリオことクエンティン・ベックは、先述の通りトニースタークの元部下であり、彼によって尊厳を否定された被害者の一人。しかもベックがトニースタークの被害に遭ったのは、トニースタークがアイアンマンとして、ヒーローとしてバリバリに活躍している時期。アイアンマンのヒーロー性というMCUのテーマを根底からひっくり返す一撃。アイアンマンのヒーロー性を描いたアベンジャーズエンドゲームと、真っ向から否定したスパイダーマンファーフロムホーム。この対比が見事で、試みが実に大胆。あくまでアイアンマンを「最高のヒーロー」として描くことなく、最後まで「人間くさいヒーロー」として描くMCUの危ない綱渡りが功を奏した例と言えましょう。この大胆さには、単純に賛辞を送りたい気分。

 アイアンマン関連で言えば、劇団ミステリオの一員、ウィリアム。彼はMCU第一作アイアンマンのヴィラン、オバディアの部下として登場し、その後一切登場していないモブキャラのような存在でしたが、まさかの再登場。オバディアに加担したことであっさり解雇されたということなのかもしれませんね。彼はいわば、オバディアに叱られていたダメダメな部下。アベンジャーズエンドゲームが、ヒーローヴィランともに洗練されたビッグネームによる総集編とすれば、司令官であるところのフューリーやヒル、タロス、ハッピーやそして敵ならばウィルソンといった、最前線から一歩退いた者たちによる裏総集編といった趣を呈している印象。エンドゲームでは描ききれなかった23作品分の厚みが込められていた配役は、嬉しいものでした。ウィリアムはほんとなんの活躍もしないモブ中のモブでしたが、オバディアに叱られているシーンは印象に残りやすく、不意打ちの登場にもかかわらず皆が覚えているような、そんな絶妙な役どころを持ってきたのは名采配だったと思われます。

 インフィニティーウォーのラスト、サノスのスナップによって宇宙の半分の生命が死滅し、ヒーローもまた半分になってしまったアベンジャーズ。彼らがいかにしてヒーローらを復活させ、サノスを打ち倒すのかについては様々な憶測がなされていました。マーベルスタジオは、作品の情報を一切漏らさず、映画のタイトルすら公開しないという徹底ぶりでありました。パパラッチを通して撮影現場の状況がリークされ、これまでMCUに登場したキャラクターたちが再登場するということが明かされるとともに、これまで「死んだ」はずのキャラクターまでもが出演するという情報が流れてきました。ここから様々な考察がなされていったのですが、その中でも最有力だった二つの説が、「アントマンの量子世界の技術を使い過去にタイムトラベルし、どうにかする中で過去キャラが登場する」という説と、「シビルウォーに登場したホログラムマシンで過去キャラが映し出される、という形で再登場する」という説。どちらも真実味がある説でしたが実際の答えは、前者でありました。そう、クエンティン・ベックのホログラム技術というのは、アベンジャーズエンドゲーム予想にて非常に話題に挙がった技術だったんですよね。エンドゲーム公開によって答えが明らかになると、「ホログラムマシン」の存在は観客の頭から一瞬なりを潜め、もう再登場することはないのかなと忘れられかけていたところで、本作の再登場。あれだけ話題に挙がっていただけに、ミステリオと関係がありそうと予想できなくもなかったのに、まんまと騙された、というのがまた、面白かったですね。本作は裏エンドゲームの様相を呈しているというのは先程も話したとおりですが、エンドゲーム予想で槍玉に挙がった技術がここで登場する、なんて上記の話を加味しても、実に裏エンドゲームな作品と言えるのではないでしょうか。

 ミステリオこと、クエンティン・ベックを演じたジェイク・ギレンホール氏は、こんな言葉を残しています。「ヒーローたちに教訓を与えるのが、いつもオビ=ワン・ケノービのようなキャラクターである必要はない」( https://theriver.jp/ffh-jake-last/2/ )と。スパイダーマンは、誰にでも優しく、敵をも憎まず助けようとするそんな清らかな心を持ったヒーローです。そんな彼が、人を騙し、殺し、惑わせ、それを悪いことだとも思わないような残忍な、それでいて人間味のある悪役に出会ったとき、スパイダーマンは新たな一歩を踏み出すのだと思います。そういう意味で、ミステリオは他でもない「スパイダーマンに教訓を与える存在」であり、またそれが師匠弟子としての関係でなくてもいいのだ、というのは、納得。そして、主人公を成長させる、それこそが悪役の存在理由にほかならず、「悪役」学の基本となる考えを、改めて思い出す機会ともなりました。

 いやぁ今年はとにかくミステリオの年でしたね。夏にこの映画が公開されてからは、ネットでミステリオのイラストを探したり、ミステリオのBGMを常に聞いていたり、ミステリオのデフォルメお絵かきをしたり、映画館に再び赴いたりブルーレイを見返すなどしてミステリオの魅力に何度も触れたりと、実にミステリオにのめり込んだ一年でありました。また今年は、ミステリオというキャラそのものだけでなく、演者であるジェイク・ギレンホールにハマった年でもあり、彼が出演した映画を幾つもあさっては見ていましたね。先に紹介した「ナイトクローラー」もその一つで、今作でミステリオにハマった方には特におすすめです。

 とにかく、スパイダーマンファーフロムホームをまだ見たことがない方には絶対に見てほしいですし、ミステリオを既に楽しんだ方も、またもう一度、その魅力に触れてほしいなと思う、素敵な作品、素敵な悪役でありました。来年もまた、素敵な悪役に出会えることを、楽しみにしています。

 それでは、最後にこのセリフでお別れしましょう!igomasでした!

 

   Mysterio is the truth!

 

・悪役グランプリ、ノミネート悪役リスト

電光超人グリッドマン」より、カーンデジファー&藤堂武史、怪獣

「劇場版ウルトラマンジード つなぐぜ!願い!」より、ギャラクトロンMK2、ギルバリス、バリスレイダー

「スパイダーバース」より、キングピン、プロウラー、ドクターオクトパス、スコーピオン、トゥームストーン、グリーンゴブリン等

ブギーポップは笑わない」(初回三話で断念)より、マンティコア、早乙女正美

インフェルノ」より、『犯人』その他悪役(ネタバレのため名は明かしません)

スターウォーズ・ローグワン」より、オーソン=クレニック

ソードアートオンライン=アリシゼーション」より、整合騎士、チュデルキン、アドミニストレータ、ソードゴーレム

「エージェントオブシールドシーズン5」より、クリー人 カサイアス、シナラ、ルビーヘイル、ヘイル准将他

「UNFIX」より、特外

モブサイコ100 II」より、組織「ツメ」、悪霊たち

ウルトラマンガイア」より、アグル、根源的破滅招来体、怪獣

「キャプテンマーベル」より、ヨンロッグ、スプリームインテリジェンス、ミンエルヴァ、タロス、スクラル人他

ジーニーのマジックシアター」より、シャバーン

レイトン ミステリー探偵社~カトリーのナゾトキファイル~」より、アリアドネ、ルーファス=アルデバラン

仮面ライダージオウ」より、タイムジャッカー、アナザーライダー、白ウォズ、オーマジオウ他

ルパン三世(TVスペシャル)ハリマオの財宝を追え!!」より、ラッセル、ゲーリング
アベンジャーズエンドゲーム」より、サノス
文豪ストレイドッグス(第三期)」より、フョードルD、蘭堂、イワンG、プシュキンA他
「ドクターストレンジ」より、カエシリウスドルマムゥ
「劇場版 仮面ライダー電王 俺、誕生!」より、ガオウ
「劇場版 超・仮面ライダー電王&ディケイド NEOジェネレーションズ 鬼ヶ島の戦艦」より、クチヒコ、ミミヒコ
「ペット」より、スノーボール、リッパー、タトゥ
スパイダーマンファーフロムホーム」より、ミステリオ、エレメンタルズ
ウルトラマンタイガ」より、霧崎、ウルトラマントレギア、ヴィラン・ギルド、怪獣
「ジョーカー」より、ジョーカー
仮面ライダー01」より、滅亡迅雷ネット、怪人(マギア)
ナイトクローラー」より、ルイス・ブルーム
ダークナイト」より、ジョーカー、トゥーフェイス

「映画 傷だらけの悪魔」より、小田切 詩乃

バーフバリ 伝説誕生」「バーフバリ 王の凱旋」より、バラーラデーヴァ他